織庵は、現代の私たちが認識している茶室とはさまざまな点で異なる特色を持つ茶室です。その中でも特筆すべき点は、織物で囲うことにより、茶の湯のための場を形成している点です。本茶室は、茶の湯文化の現代表現を模索する「茶美会」を主宰する伊住禮次朗氏の協力を得て設計されたものです。伊住氏によると、茶室のルーツの一つとして、空間を囲うことで人々が寄り合う場を形成していたことが挙げられると言います。これらの空間の成り立ちは、襖や障子などの間仕切りによって空間を形成してきた日本建築の特色とも一致します。織庵は、このような「囲い」という茶室の始まりに立ち帰り、織物を起点に現代ならではの茶の湯文化を通じて、空間の在り方を考えることを試みます。
織庵に使われている織物は、「Shoji Fabrics」と題した新作テキスタイルコレクションで、2023年、オランダのテキスタイルデザイナー メイ・エンゲルギールとHOSOOの協業によって制作されました。「Shoji Fabrics」は、エンゲルギールが日本家屋に見られる「障子」から着想を得てデザインされたものであり、西陣織の伝統的な織りの手法である「紗」の技術を応用して制作されました。紗とは、緯糸を織り込む際に二本の経糸をからませ、織地表面に透かし目をつくる技法です。細尾では、和紙糸を使うなど生地の質感も追求しながら、紗の伝統技法を現代的な解釈によって改変し、独特の透け感を持った紗に仕上げています。
そして、織庵におけるもう一つの重要な点は、現代の規格品のフレームを用いて茶室の骨組みを構成している点です。寸法は、千利休の時代に定められた伝統的な茶室の寸法・比率とはやや異なります。これらの規格品のサイズに準じることは、伝統的な寸法・比率を僅かに崩す条件となり、定式化された茶室に微細な揺らぎをもたらしています。そして、これらの骨格は、解体し、再度組み上げることが可能であり、「組み立て茶室」としての流動的な機能性も有しています。
織庵は、紗がもたらす独特の透けによって、空間を完全に分断するのではなく、茶室に内と外を緩やかにつなぐ流動性をもたらします。また組み立てることで場を形成するという軽やかさがあります。織庵を通じて、伊住氏はこれらの流動性を、「数寄=透き」の一つとして解釈し、常設の茶室とは異なる場における茶の湯の可能性を探究しています。
HOSOO GALLERYでは、これまでに、リサーチシリーズ「Texture from Textile」の活動を通して、織物を題材に建築史を捉え直す実践的な取り組みを継続してきました。織庵は、これらの活動の流れを汲み、茶の湯文化を一つの手がかりとしつつ、現代、そして未来へ、織物から派生する多様な文化の発展について考察を深めていく所存です。